DXへの取り組みについて(2025年改訂版)

Fネットホールディングス株式会社
代表取締役 矢萩 達也
2025年12月13日


はじめに

F・ネットグループは、青果物流通を通じて「大地と食卓をつなぐ」ことを使命とし、産地・卸売・物流・小売・消費者を結び付ける役割を担ってきました。

一方で、青果物流通の現場では、人口減少・担い手不足、天候不順や災害リスク、消費行動の変化、人件費や物流コストの上昇など、事業環境の変化が加速しています。従来の強みを活かしつつも、この変化に対応しながら継続的に価値を提供するため、業務や仕組みを一層進化させる必要があります。

当社グループは、データとデジタル技術を活用してビジネスモデル・業務プロセス・働き方を変革する「DX経営」に取り組み、地域の青果物流通インフラとしての役割を一層強化していきます。

当社は、2024年3月1日付で経済産業省「DX認定制度」に基づくDX認定事業者の認定を受けました。本方針は、経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~」およびDX認定制度の趣旨に基づき、2023年策定方針の見直しと、その後の取組・実績を踏まえて2025年に改訂するものです。


1 経営ビジョン・ビジネスモデルとDXの位置づけ

1-1 当社グループの役割

F・ネットグループは、ロジスティクス機能(Logistics)、マーチャンダイジング機能(Merchandising)、インテリジェンス機能(Intelligence)の三つを中核機能として統合し、次の価値を提供することを目指しています。

  • 産地・仕入先に対して
     ロジスティクス機能により安定的・公正な販売機会と取引が円滑に進むよう支え、
     マーチャンダイジング機能により品種・規格・販売チャネルの最適化を図り、
     インテリジェンス機能により需要・価格・消費動向などの情報をフィードバックすることで、
     中長期的な販路拡大と利益向上に貢献します。

  • 小売等の取引先に対して
     ロジスティクス機能により鮮度・品質・安定供給を両立させた調達・供給を実現し、
     マーチャンダイジング機能によりカテゴリー・シーズン・売場に応じた品揃えと粗利設計を提案し、
     インテリジェンス機能によりPOSデータや市場情報に基づく販売分析・売場改善提案を行うことで、
     取引先の収益性向上と差別化に貢献します。

  • 地域社会・消費者に対して
     ロジスティクス機能により安定供給に向けた運用と体制を強化し、
     マーチャンダイジング機能により地域の食文化や嗜好に合った商品・メニュー提案を行い、
     インテリジェンス機能により産地・栽培方法・安全性などの情報を分かりやすく伝達することで、
     安心・安全で持続可能な食の提供と食文化の継承に貢献します。

当社グループは、これら三つの機能を相互に連携させ、一体として進化させることを経営の中核戦略と位置付けています。

1-2 DX経営の基本方針

当社グループは、DXを以下のように位置付けます。

  • 長年にわたる青果物流通の現場で蓄積してきた「人の勘と経験」を、データと仕組みに落とし込み、属人化を抑えつつ一定水準の品質・生産性を安定的に確保できる状態を目指す
  • 紙・電話・FAX・対面に分散した取引プロセスを、デジタルと組み合わせることで統合・連携し、スピードと正確性を高めること
  • 営業や物流拠点・グループ会社・取引先様等が必要な情報を適時に共有し、需給調整や在庫の最適化を図ること

この方針のもと、DXを通じて「地域の青果流通を支えるインフラ企業」としての価値を高めていきます。

1-3 これまでの主な取組・実績(2024~2025年度)

DX認定取得後、当社グループは次のような具体的な取組を進めてきました。

  • 受注業務のWebアプリケーション化:パートナー企業と協働し、開発中の新受注システムをWebアプリケーションとして構築し、ユーザー体験の向上と社内システムとのデータ連携による受注処理の省力化、受注状況の可視化や需要管理を進めるとともに、需要予測に向けた基盤整備を進めている
  • 労務・人事領域のDX:クラウド型の人事・労務管理システムを導入中であり、勤怠・給与・各種申請手続きなど非競争領域のバックオフィス業務の効率化を進めている
  • 在庫管理の高度化:在庫管理システムを構築し、各営業担当者のExcelファイルに分散していた在庫管理情報の段階的な統合を進めるとともに、ピッキング指示の一元化・標準化に取り組んでいる
  • レガシーシステムの段階的刷新:既存の基幹システムの一部機能や、個別に開発されていたツール群を単一のWebアプリケーション上で利用できるように再編し、保守性とユーザビリティの向上を図っている
  • 生成AI等の活用環境整備:生成AIチャットサービスやAIコーディング支援ツール等を一部部門で試行導入し、情報の取扱いに留意しながら企画・資料作成・プログラム開発等における壁打ちやアイデア創出に活用することで、新たな付加価値創出の可能性を検証している

2 DX戦略

2-1 DX戦略全体像

当社グループは、DX戦略を次の4つの重点テーマで構成します。

  1. サプライチェーン・在庫DX
  2. 営業・顧客接点DX
  3. グループ経営基盤・バックオフィスDX
  4. 人材・組織文化のDX

これらを通じて、業務効率・サービス品質・収益性・リスク耐性の向上を同時に実現することを目指します。

2-2 重点テーマ(1):サプライチェーン・在庫DX

  • 受発注から入出庫・在庫・配送まで、一貫したデータ連携を実現し、在庫の見える化を行う
  • 在庫データにID情報を付与し、動かない在庫・廃棄リスクの高い在庫を特定し、適正在庫水準の維持を目指す
  • 主要取引先との間で、発注データを活用した需要予測・品揃え提案を行い、欠品・過剰在庫を抑制する

2-3 重点テーマ(2):営業・顧客接点DX

  • 現在開発中の受注システムを活用し、LINEや電話などに分散する受注を集中管理することで、お客様の利便性向上とデータ活用性向上を目指す
  • 営業担当の商談履歴・提案内容・粗利益情報等を一元管理し、個人の経験に依存しない営業活動を目指す
  • 顧客セグメント別に、販売実績・収益性・取引期間等を分析し、中長期的な取引戦略を設計する

2-4 重点テーマ(3):グループ経営基盤・バックオフィスDX

  • 基幹システムの老朽化・ブラックボックス化を解消し、段階的なマイグレーションとデータ連携基盤の整備を進める
  • 総務・経理・人事労務の各業務について、紙・押印・対面手続きの削減とワークフローシステムの展開を進める
  • 電子帳簿保存法・インボイス制度等の法令対応を、単なる義務対応に留めず、業務効率化と統制強化の機会として活用する

2-5 重点テーマ(4):人材・組織文化のDX

  • 現場経験とデジタル知識を兼ね備えた「ハイブリッド人材」を計画的に育成する
  • 現場からの改善提案やデータに基づく業務の見直しを促すため、業務改革推進室を窓口とした相談・提案の場を設け、採用された取組や成果を社内で共有する
  • グループ横断での情報共有・ナレッジ共有については、まず主要プロジェクトの進捗・成功事例・失敗事例を共有する場(定例会議や社内ポータル等)を整備し、段階的に対象範囲を広げていく

3 DX戦略の推進体制

3-1 ガバナンスと意思決定

  • DX経営の最終責任は代表取締役が負い、取締役会はDX戦略の策定、進捗状況の報告を受けたモニタリング、リスク管理を担う
  • 経営会議には、情報システム・ロジスティクス・人事労務等の視点を持ったメンバーが参加し、DXに関する重要な投資・制度設計を審議する
  • DXに関わる重要案件(基幹システム刷新、大規模クラウドサービス導入等)については、取締役による決議を経る

3-2 推進組織

  • 業務改革推進室(旧称:DX委員会)を当社内、取締役直下に設置し、DXの企画・実行を統括する
     - 中核人員はグループ内から選任された社内人材としつつ、部門横断・全社最適の視点から改革をリードする
     - プロジェクトごとに担当業務の中心人物(部門長・現場リーダー等)と協働し、現場に根差した改善テーマの設定と実行を行う
     - 推進室会議は原則として月1回開催し、主要プロジェクトの進捗・課題をレビューする
  • 重要プロジェクトについては、プロジェクトオーナーを明確化し、責任と権限を付与する
  • システム部門・情報システム担当も業務改革推進室のメンバーとし、インフラやアプリケーション、データ基盤の整備を担いながら、業務部門と連携して業務改革を進める

3-3 リスク管理

  • DXプロジェクトにおける投資・外部委託・ベンダーロックイン等のリスクについて、事前に評価・承認のプロセスを経る
  • 在庫・売上・個人情報等、重要データの取扱いについて社内規程を運用し、アクセス権限・ログ管理・監査の仕組みを活用する
  • 情報システム障害・サイバー攻撃・災害等に備え、重要システムのバックアップと復旧手順を定めたBCPプランの整備を進める

4 デジタル人材の育成・確保

4-1 必要な人材像の定義

当社グループは、DX推進に必要な人材像を以下のように整理します。

  • DXリーダー人材:事業・業務の理解とIT技術の知識を持ち、現場課題をDXプロジェクトに落とし込める人材
  • IT/データ人材:システム設計・開発・運用、データ分析・可視化を通じて、現場の意思決定を支援する人材
  • デジタル活用人材:日常業務でデジタルツールを使いこなし、データに基づき判断できるすべての従業員

4-2 育成・配置の方針

  • デジタルスキル標準等を参考に、職種・階層ごとの「求めるデジタルスキルレベル」を定義し、自己診断とOJT、プロジェクト参画等に落とし込む
  • DX推進に関心の高い社員を公募・指名し、プロジェクトへの兼務参加等を通じて育成する。必要に応じて外部研修等の学習機会も活用する
  • 社内で育成しきれない高度なスキルについて、外部パートナーとの協働や中途採用も組み合わせる

5 ITシステム・データ基盤・サイバーセキュリティ

5-1 ITシステムの方向性

  • 既存の基幹システムと新規・開発中の各種システム(受注・在庫管理 等)との連携を強化し、二重入力・手作業を削減する
  • クラウドサービスの活用にあたっては、コスト・セキュリティ・拡張性・ベンダーロックイン等を総合的に評価し、段階的に移行する
  • 現場で使われているExcel・紙帳票について、標準フォーマット化とデータベース連携を進める

5-2 データ基盤・データ活用

  • 売上・在庫・仕入・配送・人件費等の主要データを横断的に集約し、部門横断で分析できる環境の整備を進める
  • 経営層・部門長向けに、主要指標を可視化したダッシュボードの整備を進める

5-3 サイバーセキュリティ・BCP

  • 中小企業向けのセキュリティガイドライン等を参考に、自社の情報セキュリティポリシーを整備し、社内展開を進める
  • メール・クラウドサービス・ネットワーク機器等に関する基本的なセキュリティ対策(多要素認証、アクセス権限管理、ログ取得等)を実施する
  • フィッシング訓練等を実施し、セキュリティ対策の実効性を点検する
  • 業務改革推進室内に情報処理安全確保支援士資格を有する人材を配置し、情報セキュリティポリシーの運用・教育・監査や、システム導入・改修時のセキュリティレビューを通じて、当社グループのサイバーセキュリティ対策の実効性を高める
  • 基幹システム・受注システム・在庫管理システム等の障害・災害時を想定し、バックアップ・復旧手順・代替手段の整備を進める

6 成果指標(KPI)とモニタリング・戦略の見直し

6-1 KPIの考え方

当社グループは、DXの成果を以下の観点から測定します。

  • 業務効率:紙帳票出力数、稼働時間
  • 品質:出荷ミス件数、赤伝率
  • リスク・統制:在庫廃棄額、情報セキュリティインシデント件数
  • 人材・組織:DX関連プロジェクトの参画人数、デジタルを活用した業務改善提案件数、新規販売計画件数
  • 財務・事業:粗利益率、在庫回転日数、特定顧客・カテゴリー別の収益性

7 ステークホルダーとの対話

当社グループは、DX推進にあたり、以下のステークホルダーとの対話を重視します。

  • 従業員:DXの目的・方向性・進捗を共有し、業務負担や不安の声も含めて意見を収集する
  • 仕入先様:受発注システム・物流情報の連携等により、双方の業務効率化・収益性向上を図る
  • 取引先様:POSデータ等を活用した提案営業や、サステナビリティ・食の安全に関する取組を共有する
  • 金融機関・行政・支援機関:DX認定制度等を活用しつつ、事業・DXの方向性を説明し、必要な支援・連携を得る

8 おわりに

F・ネットグループは、青果物流通の現場で培ってきた経験・関係性と、データ・デジタル技術を組み合わせることで、地域に不可欠なインフラとしての役割をさらに高めていきます。

DXは、一部の担当者だけで完結するものではありません。現場で働く一人ひとりが、日々の業務の中でデジタルを活かし、データに基づいて考え、行動を変えていくことが不可欠です。

本方針に基づき、当社ならびに当社グループはDX経営を着実に進め、その進捗と成果を継続的に公表します。